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病院職員が患者の姿を本人の同意なく撮影し、その画像や動画をSNSに投稿する行為は、患者のプライバシーや名誉を侵害する重大な問題です。投稿に侮辱的なコメントが添えられていれば、刑事責任や損害賠償責任が生じる可能性もあります。
近時、福岡県北九州市の済生会八幡総合病院や千葉西総合病院、JR札幌病院において、職員による患者の撮影やSNS投稿に関する事案が明らかになりました。
このような行為については、撮影・投稿を行った職員個人の責任だけでなく、病院側の責任や懲戒処分の適法性も問題となります。以下、主な法的問題を解説します。
患者の画像や動画を無断で撮影し、侮辱的なコメントとともにSNSへ投稿した場合、具体的な内容や公開状況によっては、犯罪が成立する可能性があります。
まず、刑法231条の侮辱罪は、事実を具体的に示すことなく、公然と人を侮辱した場合に成立します。患者の画像に人格を否定するような言葉を添えて公開した場合などが、その一例です。法定刑は、1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金、又は拘留若しくは科料です。
また、刑法230条1項の名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の社会的評価を低下させた場合に成立する可能性があります。法定刑は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。記載内容が真実であっても当然に処罰を免れるわけではなく、公共性、公益目的、真実性などに関する刑法230条の2の要件を満たすかが問題となります。
さらに、撮影対象に性的な姿態や下着などが含まれる場合には、性的姿態等撮影罪や、撮影記録の提供・公然陳列等に関する犯罪が成立する可能性もあります。ただし、患者の身体が映っているだけで直ちに成立するものではなく、撮影状況などを踏まえた判断が必要です。
このほか、投稿によって病院の業務が妨害された場合には業務妨害罪、患者の病状や診療内容などの秘密を漏らした場合には秘密漏示罪の成否も問題となり得ます。もっとも、秘密漏示罪は刑法134条に定められた職業上の主体などに該当することが必要であり、病院職員全員に一律に適用されるわけではありません。
SNSのアカウントを非公開に設定していたとしても、それだけで刑事責任を免れるわけではありません。
侮辱罪や名誉毀損罪では、原則として、不特定又は多数の人が認識できる状態である「公然性」が必要です。そのため、閲覧者が限定されたアカウントでも、閲覧できる人数や関係性、情報が広がる可能性などによっては、公然性が認められる余地があります。
一方、閲覧者が少数の特定された人に限られる場合には、公然性が否定されることもあります。非公開設定の有無だけで結論は決まらず、実際の閲覧状況などを踏まえた判断が必要です。
刑事責任とは別に、患者の権利や法律上保護される利益を侵害した場合には、民事上の損害賠償責任が生じる可能性があります。
民法709条により、職員は、故意又は過失によって患者のプライバシーや肖像に関する利益、名誉などを侵害した場合、損害賠償責任を負うことがあります。賠償の対象としては、精神的苦痛に対する慰謝料のほか、被害との因果関係が認められる治療費や休業損害などが考えられます。
また、病院側についても、民法715条の使用者責任が成立する可能性があります。同条は、被用者が事業の執行について第三者に損害を与えた場合に、使用者にも賠償責任を負わせるものです。
ただし、勤務中に行われたというだけで、当然に使用者責任が成立するわけではありません。職務との関連性や行為の外形などを踏まえ、事業の執行について行われたと評価できるかを検討する必要があります。職員と病院側の行為が共同不法行為に当たる場合には、民法719条に基づく責任も問題となります。
患者を無断で撮影し、侮辱的な内容とともに投稿した職員について、病院が懲戒処分を検討することは十分に考えられます。行為が悪質であれば、懲戒解雇が選択肢となる場合もあります。
もっとも、処分の適法性は個別の事情によって判断されます。労働契約法15条は、懲戒に客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合、その懲戒を無効としています。また、解雇についても、同法16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には無効となります。
判断に当たっては、投稿の目的や内容、患者への影響、拡散状況、職員の職責や勤務状況、就業規則の内容などが考慮されます。患者の尊厳を著しく損ない、医療機関への信頼を失わせる行為は、重い処分の理由となり得ますが、最終的には具体的な事情に即した判断が必要です。
病院には、職員個人への処分にとどまらず、再発防止に向けた管理体制の整備も求められます。
具体的には、患者の撮影や個人情報の取り扱い、SNSへの投稿に関する院内規程を明確化すること、職員への研修を継続的に実施すること、違反行為の報告・調査体制を整えることなどが重要です。
問題が発生した場合には、投稿の拡散防止、証拠の保全、関係者への聞き取り、患者への適切な対応を進める必要があります。規程を整備するだけでなく、職員がルールを理解し、遵守できる環境をつくることも重要です。
病院職員が患者を無断で撮影し、侮辱的なコメントとともにSNSへ投稿した場合、侮辱罪や名誉毀損罪などの刑事責任に加え、プライバシー侵害や名誉侵害を理由とする損害賠償責任が生じる可能性があります。また、病院側にも使用者責任が成立する場合があるほか、職員への懲戒処分や再発防止策の検討が必要です。
患者が安心して診療を受けられる環境を守るためには、職員個人の責任を明らかにするだけでなく、病院全体で患者の権利を保護する体制を確立することが重要です。
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