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月100時間超残業で48歳医師が寝たきりに

労働問題労働災害

都内の大学病院で緩和医療科の常勤医師として勤務していた男性(当時48歳)が、くも膜下出血を発症した事件をめぐり、東京地裁は3月16日、国の労災不認定処分を取り消す判決を言い渡した。

最大の争点となった宿直勤務について、裁判所はその時間全体を「労働時間」と認定。月100時間超の時間外労働があったとの判断を示している。

被告国が控訴期限内に控訴しなかったため、本判決は確定した。これを受け4月1日、原告代理人らが都内で記者会見を開き、本判決の意義を説明した。

くも膜下出血発症で寝たきり状態に

原告の男性医師・Aさんは、生命を脅かす疾患の患者に対する緩和ケアを担う同科唯一の実勤医師だった。勤務先は難治疾患に対する先端医療開発や臨床研究を行うことを目的とした医療機関で、入院患者の評価・治療だけでなく、他科の入院患者への緩和医療や外来診療も引き受けていた。

しかし、Aさんは2018年11月8日にくも膜下出血を発症した。重い意識障害と麻痺による強い拘縮が生じ、言語機能も喪失していた。現在も入院・療養が続き、日常生活のすべてに介助を要する寝たきり状態だという。

Aさんは労災を申請したが、労働基準監督署は、宿直中の仮眠時間(6時間)を労働時間から除外。くも膜下出血の発症が業務に起因するものとは認められないとして、労災の不支給を決定した。

Aさんは審査請求・再審査請求を行ったが、いずれも棄却されたため、処分取消を求めて東京地裁に提訴した。

本件判決は、宿直勤務時間の法的評価および過重労働と疾病との因果関係(業務起因性)について、労働基準法および労災保険法の解釈を具体的事実に即して適用した点に重要な意義がある。

まず、労働時間該当性については、労働基準法上、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」が労働時間に該当する(最判平成12年3月9日・三菱重工長崎造船所事件等)。本件において裁判所は、宿直中の医師が①院内待機を義務付けられていたこと、②PHSによる呼出しに随時応答し診療行為に従事していたこと、③患者急変や死亡対応に備える継続的な緊張状態にあったことを重視し、「労働からの解放が保障されていない」と認定した。したがって、仮眠時間を含む宿直時間全体が、形式的な業務従事の有無にかかわらず、実質的に指揮命令下にある時間として労働時間に該当すると判断した。

次に、労災認定における業務起因性については、労働者災害補償保険法に基づき、「業務と疾病との間に相当因果関係」が認められるかが問題となる。厚生労働省の認定基準においても、発症前おおむね1か月間に100時間超の時間外労働が認められる場合、業務と脳・心臓疾患との関連性が強いとされる。本件では、宿直時間を含めて再評価した結果、月100時間を超える時間外労働が認定され、医学的にも過重負荷がくも膜下出血発症の有力な原因となり得ることから、業務起因性が肯定された。

さらに、本判決は、行政実務における宿直時間の一律除外という運用に対し、実態に即した個別具体的判断の必要性を明確に示した点で重要である。すなわち、単に「仮眠可能時間」が存在することのみをもって労働時間性を否定することは許されず、実際の拘束性・応答義務・心理的負荷等を総合考慮すべきであるとの基準を再確認したものといえる。

以上より、本判決は、労働時間概念の実質的解釈を徹底し、過重労働の過少評価を是正する方向性を示すとともに、医師の宿直勤務の特殊性を踏まえた労災認定実務の見直しを促す先例的意義を有する。

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