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学校法人東京女子医科大学の元理事長が、令和7年1月13日、背任容疑で警視庁に逮捕されました。
事件の概要としては、元理事長が発注したキャンパスの施設の建設工事を巡り、建築士の口座に不当に高い報酬を大学に支払わせ、建築士から元理事長に資金の一部が渡されており、大学の損害は1億円以上になるとの報道です。
事件発覚の経緯は、職員による週刊誌への告発ですが、大学側は告発した2人の職員を懲戒処分としましたが、この懲戒解雇は有効かを判断するに当たり、そもそも職員2名は、公益通報者保護制度により不利益を課されないと評価できないかという大きな問題があります。
公益通者保護制度とは、組織内の人間が内部告発を行った場合、不利益な取り扱いを受けないよう規定されています。
通報者が保護されるためには制度が定める通報先に通報する必要があり、通報先は下記のとおりです。
1 役務提供先等(1号通報)
2 行政機関等(2号通報)
3 報道機関等(3号通報)
職員2名が実際に通報したのは、株式会社文藝春秋であり、2022年4月に、同社が発刊する「週刊文春」でその内容が公表されました。
週刊文春(株式会社文藝春秋)に対する告発が、3号通報(報道機関等)に該当するかの問題となります。
3号通報の通報先としては、報道機関以外に、消費者団体、事業者団体、労働組合などが挙げられます。
週刊誌が3号通報の報道機関等に該当するかについては、直ちに該当するとの判断ではなく、個別の事情を踏まえて綜合的に3号通報に該当するかが判断されるます。
3号通報の報道機関等を示している趣旨は、「その者に対し、当該通報対象事実を通報することでその発生やこれによる被害の拡大を防止するために必要であること」です。
従って、過去の裁判例では、記者が告発者の告発内容の裏付け取材(事業者に対する反対取材)を全く行わないまま週刊誌を発刊した事案で、「少なくとも本件に関する限り、3号通報の示す報道機関等には該当しない」と判示しており、告発者が週刊誌の記者に告発を行った場合、告発者が保護されるかは、告発先である週刊誌のその後の対応に左右されるため、週刊誌に対する告発はかなりの注意が必要と言わざるを得ません。
また、3号通報として保護されるためには、適切な通報先を選ぶことに加え、真実相当性の要件(真実であると信ずるに足る正当な理由や根拠がある)という「特定事由該当性の要件」を満たす必要があります。
「特定事由該当性の要件」は、次のような内容となっています。
(1)通報により不利益な取り扱いを受ける・証拠隠滅されると信ずるに足りる相当の理由がある場合
(2)正当な理由なく公益通報しないことを要求される、事業者に通報後20日経過しても調査されない場合
(3)個人の生命・身体に危害が発生しまたは発生する急迫した危険がある場合
(4)役務提供先に通報すると、事業者が通報者を特定させる情報を故意に、正当な理由なく漏らす可能性が高い場合
(5)生命・身体に対する危害や財産に対する回復困難又は重大な損害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
以上のとおり、3号通報として保護されるためには、「特定事由該当性の要件」という相応に高い基準を満たす必要があり、3号通報に該当するかは慎重に検討される必要があります。
但し、3号通報に該当しないという判断が、直接、それらの職員に対し、懲戒解雇をするのが合法であるとの結論にはなりません。
解雇は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」(労働基準法第16条)と規定されています。
すなわち、①解雇は客観的に合理的な理由があること、②社会通念上相当であること(解雇が社会的に見て妥当であること)の2つの視点から検討されます。
今回の職員2名の解雇は、週刊文春(株式会社文藝春秋)に対し内部情報を伝えたことです。
この通報内容が客観的に事実である場合、雇用先の大学の不利益を防止する目的であると推測されるため、大学が職員を解雇することに客観的な合理性があるとは認めがたいです。特にその情報が大学内での犯罪情報である場合、大学はその犯罪を防止する義務があることも踏まえると、客観的に合理的な理由があると評価することは困難と思われます。
また、犯罪情報が事実である場合、その通報をしたことで解雇されることが社会的にみて妥当かですが、3号通報で保護されないとしても、解雇をすることは社会通念に反するものと考えられます。
以上からは、3号通報に該当しなくても、本件での大学職員2名の解雇は、不当な解雇(違法な解雇)と評価されるのが妥当です。
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